「漂流の 友は痩せたる 禿鼠」

エルサレム賞の受賞者に決まったのがハルキじゃなしに、『古代ユダヤ社会史』の翻訳もある奥泉センセイなら……と夢想してみたくもなるケド、確かなのはナテハーで、これほどまでに議論が盛んになることはなかっただろうということですね、いわれんでも解って…

野間文芸新人賞受賞記念対談「弱さに寄り添う音楽と小説」

「群像」2009年1月号より。 松浦理英子と津村記久子の対談にチョー刺激受けたのでメモ。 津村さんの小説『君は永遠にそいつらより若い』『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、社会的・肉体的にも弱い存在としての女を描いている。女性の肉体的な弱さは重要な…

山田風太郎『奇想小説集』他

ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』 山田風太郎『奇想小説集』 サラ『ファースト・オーガズム』 千葉真一『千葉真一 改め 和千永倫道』 牧野修『黒娘 アウトサイダー・フィメール』 イアン・マキューアン『贖罪』 『贖罪』の底意地悪いゆえに精緻きわま…

エミール・ガボリオ『ルルージュ事件』他

酒井忠康編『槐多の歌へる 村山槐多詩文集』 『水木しげるのあの世の事典』 パトリシア・ハイスミス『動物好きに捧げる殺人読本』 エミール・ガボリオ『ルルージュ事件』 『大大阪モダン建築』 『水木しげるのあの世の事典』。古今東西、民間伝承や宗教、文…

清水博子「台所組」(「群像」2008年12月号)

ばりばり量産している若手作家と比べると、まあ寡作の清水博子さんの新作。 はじめにぱら読みしたときは「」会話が多くて、これはもしや清水流「らのべ」?とか期待したのだけど、キャラクター小説といえるほど個々の見せ場が多いわけでもないし、誰某のよう…

ヘンリー・ジェイムズ「モード・イーヴリン」(『嘘つき』より)

「人生の黄昏時を迎えた」無名の孤独な婦人、ラヴィニアがいかにして莫大な遺産を手にいれたか、という話。語り手は友人のエマ夫人。ラヴィニアは二十歳頃、同じく若くて素敵な青年、マーマデュークの求婚を拒みます。理由は明らかにされませんが、若気のい…

「霊魂」&『椿姫』

倉橋由美子「霊魂」(『ヴァージニア』より)。心臓の奇病をわずらうMは、婚約者のKに「わたしが死んだら、わたしの霊魂をおそばにまいらせますわ」と約束します。死期を間近にひかえて錯乱したためでなく、真剣に穏やかに、霊魂の行く道や本性、生前の食事が…

鹿島田真希「もう出ていこう」(「WB」vol.13)

語り手の「私」は女小説家。輔祭である夫とともに三年間、某教会の司祭館(教会職員用の「社宅」)に住んでいました。そこでは「社長」にあたる府主教座下から神学生まで、大勢が共同生活をしており、みな聖職者ながら上司に媚びるため、他人のゴミを漁ってで…

李昂『夫殺し』

「豚殺し」を生業とする夫が嗜虐欲を満たすため、同時に自身の仕事への罪悪感を振り払おうとするように日々、妻に苛烈な「凌辱」と折檻をくわえる。そのたび妻は、周囲を圧するほどの叫び声をあげつつも、暴虐の激化を恐れて耐え続ける。既に両親なく行き場…

鹿島田真希『女の庭』

語り手である普通の主婦が外国人女性に接近、回避を繰り返すうちに自身の傷を見つめなおし、赦しやら救いの契機をつかむ。母親に暴力を受けた云々の告白は、女の傷の普通でなさを強調するため、赦しやら救いの価値を高めるための彩りみたいなものだろう。で…

森村誠一『生前情交痕跡あり』

森村誠一『生前情交痕跡あり』。主人公「日高」は妻「晴子」の不倫を知りながら、大会社社長の娘婿という劣位にあるため叱責できない。さらには妻が情事を終えて帰宅した後も「夫婦の営み」を激しく求めてくるのに一々応じなければならない……という屈辱的な…

ウニカ・チュルン『ジャスミンおとこ』

狂気を記すことは存外、カンのいいひとなら誰でもやれるもので、小人やら「白いひと」などの幻覚を脈絡すっとばした文章で描けばそれなりの格好はつく。ウニカ・チュルンの文章もそれなりによくできた「文学」「精神医学的にみても極めて興味深い貴重な記録…

読書メモ

マルキ・ド・サド=原作/澁澤龍彦=訳/町田久美=絵『ホラー・ドラコニア 少女小説集成[3]淫蕩学校』 青山真治『雨月物語』 瀬川昌治『乾杯!ごきげん映画人生』 瀬川昌治といえば「喜劇映画の名手」。でも映画狂いじゃない、てれびっこなわたしには『ザ・…

読書メモ

奥泉光『浪漫的な行軍の記録』 山田登世子『ブランドの条件 (岩波新書)』 斎藤美奈子『文学的商品学 (文春文庫)』 『片岡義男 短編小説集「青年の完璧な幸福」 (SWITCH LIBRARY)』

読書メモ

クリスチャン・ガイイ/野崎歓訳『さいごの恋』 高原英理『ゴシックスピリット』 現在、ヘンリー・ジェイムズ/青木次生訳『鳩の翼』を流し読み中。『大使たち』下巻、まだ手に入れてないよ……。 生憎わたしは「ゴシック」ということばが内包する「恐怖、残酷…

「青春のゲート」(NHK総合/12月27日放送)に柳美里さん出演

「日本で最もスキャンダラスな作家 柳美里」。素晴らしい称号。東京キッドブラザースの足跡を辿りつつ、高校を退学処分になったのち16歳で劇団に入り「生涯のパートナー」東由多加と出会ってからの日々を自分の「原点」、いまも息づく「青春のゲート」であっ…

奥泉先生の「やさしい」翻訳論

10月26日付けの朝日新聞にて、奥泉光がカフカ『変身/掟の前で他2編』(丘沢静也訳/光文社古典新訳文庫)について一文を寄せている。 「秋の読書特集 新訳で文豪を楽しむ」より。 丘沢氏自身もいうように、「ではオリジナルに忠実な翻訳とはどういうものか」…

私的メモ

朝日新聞「文芸3点」終了記念。奥泉光が書評した本の一覧をメモする。 順番は適当。「」内は各回の見出し。 「物語と衝突 言葉の推進力」 ・町田康『告白』(中央公論社) ・青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』(新潮社) ・青山真治『ホテル・クロニクル…

中原昌也『名もなき孤児たちの墓』を戸外で読むのは恥ずかしい。笑いを堪えかね、いちいち吹き出してしまうので。 「近い将来、文芸書などの書籍はトイレットペーパーに印刷されて発売される。活字は、もちろん素人女性を含む全裸女性の文字フォントによる印…