読書メモ

クリスチャン・ガイイ/野崎歓訳『さいごの恋
高原英理ゴシックスピリット
現在、ヘンリー・ジェイムズ/青木次生訳『鳩の翼』を流し読み中。『大使たち』下巻、まだ手に入れてないよ……。
生憎わたしは「ゴシック」ということばが内包する「恐怖、残酷、幻想、耽美、頽廃、アナーキズム、メランコリー等」にこころゆくまで共鳴できるような「ゴシックハート」は持ち合わせていない。どちらかといえば、『ノーサンガー・アベイ』で当時流行の「ゴシックロマンス」を揶揄してみせた「リアリスト」ジェーン・オースティンに与したい。とはいいつつ、『ゴシックスピリット』で紹介されている創作物には、子供のころからいまに至るまで慣れ親しんできた、おなじみのものどもがずらりと並んでいるわけだけど。
ホラー映画やアングラ演劇、「ガロ」系の猟奇漫画、乱歩の小説など、素材選びが少々新鮮味・意外性に欠けるのが惜しい。「好きなものは誰が知っていようが新しかろうが古かろうが、何度でも何度でも愛し語り続けるべきである」という著者の意気ごみは、痛いほど理解できるものだけれど、それでも他を知りたいと欲するのは気ままな読者の贅沢心、身勝手な狩猟欲ですな。

ゴシックという呼び方が知られた後にそれらしく用意された作品もあるし、そうした作為も悪くない。しかし、そもそもゴシック建築、ゴシックロマンス、あるいは少し広げてゴシックロックまでを源泉とするなら、それら以後のゴシックというのは、死と暗黒と耽美に通ずる何かを発見する心が主なのであって、あらかじめ与えられ決まっているわけではない。だからその気になれば一見まるで関係のなさそうな世界にもゴシックな瞬間は見つけられるに違いない
(「あとがき」)

次は、一見光に満ちた世界に阿鼻叫喚や刃擦らせ鎖引き摺る音とともに忍びこむ「ゴシックな瞬間」の発見、それらをまとめたものを読んでみたい。自分でもそうした深読みに耽ってみたいと思う。