ウニカ・チュルン『ジャスミンおとこ』

狂気を記すことは存外、カンのいいひとなら誰でもやれるもので、小人やら「白いひと」などの幻覚を脈絡すっとばした文章で描けばそれなりの格好はつく。ウニカ・チュルンの文章もそれなりによくできた「文学」「精神医学的にみても極めて興味深い貴重な記録」として、自称健康な人間の理解の範疇におさまるもの、畏れるにたらないものとして読めないことはない。が、不意打ちのように挿入されるアナグラム詩、ただ「単語や文章の構成文字を置き換えてできた」だけの詩に対しては、平伏するしかない。それを「非常に熱心な仕事」としてみずからに課し、無意味を意味あるもののように格好つけるという地道な作業に固執する、わざわざ枠を設定し配置だけ変え続ける、その固執にこそ狂気、または狂気が到来する直前の不気味な静けさが宿っていると思う。

ジャスミンおとこ―分裂病女性の体験の記録

ジャスミンおとこ―分裂病女性の体験の記録