山田風太郎『奇想小説集』他

ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』
山田風太郎『奇想小説集』
サラ『ファースト・オーガズム』
千葉真一千葉真一 改め 和千永倫道』
牧野修『黒娘 アウトサイダー・フィメール』
イアン・マキューアン『贖罪』
『贖罪』の底意地悪いゆえに精緻きわまりない語りには確かに「感動」したよ!
『奇想小説集』。「陰茎人」は「鼻があるべきところに陰茎がぶらさがっている男の話」。主人公の花野大次郎クンは、異形な「鼻」の取り扱いに戸惑いつつ、自由を求めて女性遍歴を重ねる。妻、美術学生、医学博士、宗教家からこっぴどい仕打ちを受けたのち、淫売婦の崇拝の対象となる。「満員島」「自動射精機」「ハカリン」も同じく性を主題とし、良識を揺さぶる、筒井風どたばたギャクが炸裂する(モンキリ)。
「蝋人」は骨軟化症をわずらい、全身が蝋のように曲がる女に恋した男の末路を描く。女の肌のヌラヌラした感触を賞揚するさまは、谷崎「柳湯の事件」を思わせてエロティック。「黄色い下宿人」は贋作ホームズ。英国留学中の漱石が名探偵の鼻を明かすという、日本近代文学マニア興奮、シャーロキアン涙目な展開。でも天下の名探偵をぶち殺す勢いの、不謹慎なメチャ振りするマーク・トウェインの贋作の方が好きだあよ。
『黒娘 アウトサイダー・フィメール』。アニメ声で喋るロリータ娘・ウランと殺戮の女神アトムが馬鹿男を殺しまくるオハナシ。ふたりの美少女戦士は行く先々、侮蔑されストーキングされ犯され監禁された女たちを助け、必殺仕事人よろしく仇を討つ。お代はヴィクトリアン・メイデンやモワメーム・モワティエの服、『不思議の国のアリス』が着ているようなワンピースセット。そらまあ、ひと暴れしたら、お洋服が血と精液で汚れちまいますからね。本家よりかは安上がりだし。ただ、ウランとアトムふくめ、戦いに勝利するもしくは生き残った女たちが得たはずの〈救い〉の儚さには参った。『ファースト・オーガズム』にて、男並みに快楽に達したいと願うサラが場数を踏み、ようやく「イッた!」と勝ち誇るのにも似た、どうしようもない閉塞感がただよう儚さ。その結末も、感動的なまでに美しいからこそ、そらぞらしく思えてしまう。「女は肉便器」「本気で抵抗すればそんなもの強姦なんかされませんよ」とか、さんざん性差別的な言葉を読まされたあとでは、気楽に勧善懲悪劇にノレない。いろいろと失望が根深いのかもな自分。でも、ウランが男たちに暴力ふるわれながらもヘコたれず「もっとしっかり充実したちんこ持ってこい」などと、悪態をつくところは元気出る。
千葉真一改め和千永倫道』。2008年、俳優生活50周年をむかえた千葉真一の自伝。なぜか出版元は「山と渓谷社」。NHK大河ドラマの出演を終えたあと、体力的に限界を感じた千葉ちゃんは、過去の栄光と芸名を捨て、「和千永倫道」(わちながりんどう)という名で映画監督業、プロデューサー業に進出するそうで。俳優活動をするときの芸名は「JJサニー千葉」。サニーというと、何気に三枝を思いだすのだけど、そんなさんまのラジオ番組で聞いた昔話はさておき。
千葉ちゃんが初出演した大河ドラマ、恩師や友人、JACの俳優たち、「あこがれの存在」高倉健深作欣二、元妻・野際陽子、そして現在の家族について思いの丈を語る。特に『キイハンター』での事故、デビューしたての頃に健さんからもらったチャコールグレーの背広を今でも大切に持っていること、真田広之の次にJACで売りだそうとしていた堤真一が突然「辞めたい」といいだし、寂しさと無念さからビンタした件などが印象に残った。「堤君、私のビンタが肥やしになったと思って許せ。まだまだこれからだぞ」。JACの暗部を嫌でも勘ぐらせるエピソードではある。それでも志穂美悦子をふくめ、すぐれた若手を育ててきた千葉ちゃんの功績は、素直に認められるべきだとは思う。
東映ニューフェイスに合格する以前、木更津一高時代の写真が掲載されているけど、意外にも肌の白い目もと涼やかな美少年。でも、次のページをめくると映画『空手バカ一代』のスチール写真が。むさ苦しい髪型に所々破れた道着、腰に帯じゃなく縄を締めて厳つい顔で拳をふるう姿、やはり千葉ちゃんはこうでなくては、と不思議な安堵感をもたらしてくれる。「俳優は顔じゃない。僕は顔なんていらない」「肉体は俳優の言葉」だと断言する千葉ちゃんだが、今後は俳優業よりも後進の育成、映画づくりに力を尽くすという。一番撮りたい映画は「世界に持っていける『座頭市』」とのこと。

じつはアイデアはもうできているんだよ。1カット撮るのにカメラ6台を使って、殺人の凄さをとことん見せる。CGも駆使して、今まで絶対観たことがないような躍動感のある『座頭市』をやってみたいんだ。それを70代になってから自作自演でやりたい。なぜやれるかって? 座頭市は刀が短いから、年をとっても大立ち回りができるんだよ(ジョウダンさ!!)。僕の脚本では、その座頭市が、旅先でみなしごと出会うというストーリーでね。最後は『座頭市』と『子連れ狼』が一つになるんだ(笑)。

そういえば世界のキタノが『座頭市』を撮ったとき、千葉ちゃんが「こんなもの座頭市じゃない!」と激しく批判していた記憶が薄っすらと。一方、キタノと長いことバラエティ番組で共演していた花山大吉の息子は、苦い表情で沈黙していた気がするが、これは勘違いかもしれない。千葉ちゃんにはぜひ『ICHI』の感想も語ってほしいものだ。や、既にどこかでブッチャケている可能性もありますが。
個人的には、一つにまとめるよりは『座頭市』対『子連れ狼』の血戦を希望。
これなら絶対観る。もちろん、市を勝新が、拝一刀を若富センセイがやるならの話。

千葉真一 改め 和千永倫道

千葉真一 改め 和千永倫道