第329話「怪談・氷の中のヌード美人」

(脚本 清水啓司/監督 宮下泰彦/出演 露口茂 原知佐子 水原麻紀 大辻伺郎 新井茂子 仲村隆)
 ミチコの夫(名前失念)は「東西航空」国内線パイロット。妊娠中のミチコは、自分たちの幸福をおすそ分けするべく、妹のアキコと夫の弟、製氷会社主任のコウジに結婚を勧める。コウジは満更でもない様子だが、アキコは「まだ独身でいたい」とつれない返事。
 ある日ミチコに何者かが電話で、夫とアキコが不倫していると告げる。半信半疑で密会場所だというホテルを訪ね、非常階段から覗き見ると事実、ふたりが絡みあっていた。ミチコは血の気をうしない、帰り道をふらふら歩くうちに、車に轢かれそうになる。夫婦の住むマンションを警備する清水と吉田さんが、何かあったのかと訊ねるが、ミチコは表情をかたくして応じない。
 ミチコは夫とアキコに「ひとでなし」「裏切り者」と詰め寄り、研いだばかりの包丁をふりまわす。と、ふいに唸り声をあげ、腹を抱えて苦しみだし、病院に行くとお腹の子を流産する。半狂乱と化したミチコは、アキコにコウジと結婚しろと強要。それに飽きたらず、お手伝いのクミに、夫とアキコの監視を頼む。
 クミはふたりの会話を盗み聞きし、ひそかに互いを愛しあっている事実を報告。ミチコは歪んだ笑みを浮かべ、自宅へ。寝室を覗くと、夫とアキコが上半身裸で一緒に寝ている。いきりたったミチコが、ふたりを殺すため中に入ろうとすると、クミが慌てて引き止める。「後々ゆっくり殺してやる」笑いながら病院に帰ってゆくミチコ。
 クミが休暇をもらい、海から帰ると風呂場は血まみれ。ミチコが台所で、包丁を洗っている。戦慄をあらわにクミが、冷蔵庫を開けようとすると鍵がかかっている。「中に何が入っているか、あなたには関係ないわ」高笑いするミチコ。クミが逃げるように外へ出ると、コウジが待っていた。車に乗り何処かへ向かおうとするふたりを、清水が不審に思い尾行。
 一方、夫のもとにも、ミチコのときと同じ男の声で怪電話が。帰宅するとアキコは不在、ミチコが料理をこしらえて待っていた。「あなたをうんといじめて、じたばたさせてやる。こっちは笑って見物、おもしろいわ!」と言い、なにやら得体の知れない骨つき肉の入ったスープを夫に飲ませようとする。ふと夫は、冷蔵庫の中身がすべて放り出してあることに気づく。「冷蔵庫は詰まってるの」と空とぼけるミチコに、夫は声震わせ「鍵を出せ」と要求。鍵を奪うと恐る恐る扉をあける。
中にあるのは果物のみ。がっくりと肩を落とす夫。
ミチコが笑う。「アキコの死体でも入っていると思ったの? あなた気違いだわ」
 製氷工場。アキコはコウジによって誘拐され、捕縛されていた。たびたび結婚を申しこんだが断られ、力ずくで奪おうとしたコウジは、アキコを脅迫する。「死ぬか俺の言うことを聞くか、どっちかだ」。だがアキコが「あたしが好きなのはあんたのお兄さんだけ」と突っ撥ねると殴りつけ、気絶させる。「なんでも好きなものを氷に埋めこむのが好きだ」というコウジは、機械を稼動させるとひとり外に出る。自分にまで危害がおよぶのを恐れ、命令に従っていたクミがふと、間近な扉をひらくと清水が居た。
 夫はコウジの呼びだしに応じ、ミチコがひきとめようとするのも無視し、ひとり工場へ。コウジの案内で奥に進むと、アキコが氷漬けになっていた!――驚き、悲嘆にくれる夫をよそに、ミチコが憎しみこめ、氷柱を猟銃で何度も撃つ。氷が砕け散り、アキコの身体が床に落ちる。と、勝ち誇るミチコたちの前に清水が現れる。ほんもののアキコを連れて――氷漬けにされたのは、ミチコに似せたマネキン人形だったのだ。
 形勢逆転、と思いきや突然、クミが清水たちを裏切る。ミチコとアキコの姉妹は亡父から莫大な遺産を受けついだことに目をつけ、横取りしようと企んだのだ。夫とアキコが不倫しているように見せかけたのもクミの仕業で、ホテルに居たのは人形、自宅で一緒に寝ていたのは、ふたりの紅茶に睡眠薬をしこみ並べておいただけだと告白。「ふたりは清潔な関係さ!」。クミとコウジに騙されていたと知り、愕然とするミチコ。
 清水が隙を突き、悪党どもを取り押さえる。パトカーに連行されるのを見守った後、アキコはミチコに謝る。姉の夫、義兄への想いは断つと誓う。夫はミチコの自分に対する熱意に感激し、あらためて夫婦なかよく生きていこうと告げる……てな話。
※328話を飛ばしていますが、おいおいに。
「怪談」と冠してあるから、てっきりまた、幽霊に化けておどかす類のやつかと思えば……人間を氷漬けにする、という着想はもちろん江戸川乱歩『吸血鬼』からのイタダキ。でも最大のみどころはそんな悪趣味芸術ではなく、姉ミチコを演じる原知佐子の狂乱ぶりでしょう。第217話「教育ママ殺人事件」の、息子の教育に熱狂するあまり犯罪に巻きこまれ、容疑者として刑務所に放りこまれたあげく舌を噛み切ろうとする、真面目過ぎて常軌逸した女の再来。今回も中盤までは、知佐子が精神病院に入院させられ、檻のなかで薄汚れたキューピー人形を抱き、子守唄をうたいながらエンドか、などと想像していたのですが……それにしても夫も、いくら罠にはめられたとはいえ、自分や義妹を殺そうとした妻とよく仲直りできたものだなと。あの骨付き肉はなんだったのかと。男女の仲とは、かくも複雑なものなのかと(何か違)。
ちなみに。妻の豹変におののく露口茂の、かすれた裏声は絶品でした。