第326話「年上の妻の華やかな犯罪」

(脚本 池田雄一/監督 深作欣二/出演 高千穂ひづる 長谷川哲夫 松岡きっこ 今井健二 渡辺文雄 渥美国泰/「トランプの声」大塚道子)
銀行を襲撃し一億円を奪った長谷川哲夫は、妻の高千穂ひづるとともに北海道へ逃げる。が、共犯者でやくざの今井健二に執拗に追いまわされる。途中、同乗させてもらったトラックの運転手に強盗と見ぬかれて強請られ、長谷川が思い余って殺害してしまう。
遂には高千穂が今井に捕まり、あばら家に監禁される。縄で縛られ宙吊りにされ、腹を撲られながらも恋しい男の行方を黙り通す。対して長谷川は、たまたま出逢った松岡きっこに惚れこみ、年上の妻なんぞ鬱陶しい、やっぱり若い女の子がイイ! といわんばかりにイチャつき、将来ハワイで一緒に住もうなどと浮かれ気分でほざく始末。
あばら家を脱けだした高千穂は、自分が虐められていたあいだ、きっことじゃれあっていた長谷川に失望、「ろくでなし」呼ばわりして憤る。それでも、長谷川がスパナで自分を殺そうとするのを、悔し涙を流しつつ受けいれようとする。すると長谷川が兇器を放り、許してくれ、と泣き縋る。和解なるかと思いきや直後、負傷した今井があらわれ、発砲。長谷川は即死。ガードマンが今井を取り押さえるが、そのまま事切れる。
荒木が高千穂を慰める。「あなたはまだまだやり直しがきくんだ。今度の場合は、通り魔のような男にひっかかっただけなのだから」。また、高千穂のこころの拠りどころ、良心の声ともいうべきカード、スペードのクイーンも優しい声で語りかける。「ろくでなしの男に代わって、私があんたを慰めてあげる」。
だが高千穂は最後まで、自身のすべてを賭けた男への愛情を貫く。「私はこの人と一緒に星を変えた。この人はろくでなしなんかじゃない、すばらしい人だったわ。ほんとよ、いままでの男たちと違って、死ぬまで私を頼りにしてくれたのだから……」

・脚本は傑作・第249話「悪党サラリーマン」の池田雄一、監督は初登板の深作欣二! 
確か『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)ではこのドラマを人情物と捉え、『キイハンター』などとは対照的なものとして語っていたような。要再読。
・トランプの声は『ブラック・ジャック』に登場する人面瘡のような、つまりは良心の声かと。他人には一切知れない、女の内面にだけ響く幻聴のようでもあるけど。
 その母性的な忠告をも踏み越え、自分を見棄てたあげく殺害しようとした「ろくでなし」野郎を「すばらしい人」と評する、ヒロインの気高い情熱、すべて失った後の暗く澄んだ表情が感動的。
・高千穂ひづるといえば吉田喜重脚本・監督映画『ろくでなし』(1960年)のヒロイン。共演は荒木役の川津祐介、ガードマン末期常連ゲストの津川雅彦。そのため、高千穂ひづるが「ろくでなし」と呟くたび、長谷川哲夫じゃなくて津川ならなあ……あともう少し荒木との関係を鮮明にして欲しかった、アホボンのトシオさん……と思わず歯噛みしてしまいました。