第152話「愛と憎しみの弾丸」

(脚本 山浦弘靖/監督 崎山周/出演 丹羽又三郎 谷口香 川合伸旺 田口計 新井茂子 早川雄三)
 サワムラは元オリンピックのフリーピストル競技選手。浮気中の妻を競技用の銃で撃ち重傷を負わせた罪で服役し、出所したばかり。それでも鬱憤は晴れず、義理の妹アキヅキの殺人依頼を引き受ける。
 東京パトロール社本部。「城南貿易」シンガポール社員、タチバナからエアメールで「重要書類を運ぶため、羽田空港から銀座本社まで護衛して欲しい」との依頼。荒木が社に出向き、アイカワ専務に詳細を訊ねるが、専務は重要書類のことなど知らないと言う。高倉キャップたちは、タチバナには何か個人的な事情があり、身の危険を感じて依頼してきたのではと推理。
 同社のBGアキヅキはハヤマ課長と密会し、タチバナ殺しについて相談する。ハヤマはタチバナをライバル視し、出世競争から蹴落とすため、暗殺を目論んでいた。彼を愛するアキヅキも進んで計画に加わり、サワムラを殺し屋として雇ったのだ。が、アキヅキは、ハヤマがアイカワ専務の娘と婚約したとの噂を知り、問いただそうとする。ハヤマは「計画が成功すれば君と式をあげる」とごまかす。
 羽田空港。アキヅキと荒木がタチバナを出迎える。荒木はパトカーでハイヤーを護衛、それをサワムラも追う。高速道路に乗り、芝浦を過ぎたあたりでサワムラがパトカーを抜き、ハイヤーの隣にぴたりと寄せて狙撃。荒木の機転で弾は逸れ、タチバナは無事。サワムラは舌打ちし逃げ去る。
 荒木はいつまた狙われるか知れないため、タチバナとアキヅキを防弾設備のあるパトカーに乗せる。銀座本社に向かう途中、アキヅキが運転席の荒木に銃を突きつけ、芝浦の管理事務所へ戻るよう要求。到着後、車を降りたアキヅキの隙を狙い、荒木が取り押さえようとするが、待ち伏せしていたサワムラに銃で脅され、そのまま事務所の冷凍室へ。奥で荒木とサワムラが揉みあううちに、ハヤマが銃を持って現れ、愛人のアキヅキもろとも四人を閉じこめてしまう。そして証拠隠滅のため、パトカーを海に落とす。
 冷凍室。室内温度は零下二十三度、防寒装備もなく普通の服装ではせいぜい四、五時間しか生きていられない。扉を押し破ろうとするがびくともしない。サワムラが外の鍵を銃で壊そうとするが無駄。脱出口も見あたらない。荒木の持つトランシーバーも、密室では外部と連絡がとれない。天井のパイプを叩き、機関室の係員の注意を引こうとするが、事務所に居るものは皆ハヤマの息がかかっているらしく、何の応答もない。
 ふいにタチバナは銃を拾い、荒木たちを狙う。「役立たずのガードマンめ」「出世の邪魔をしやがって、殺してやる」。すぐ荒木に組み伏せられるも、誤ってパイプを撃ったため冷凍ガスが噴出。荒木が布で穴を塞ぐ。「指先が麻痺してきた」と訴えるサワムラが、冷凍食品をつめた木箱を壊して火をつけ、暖をとろうとする。が、酸素がなくなって窒息死する、と慌てて荒木が踏み消す。
 四人は部屋の隅にかたまり、膝寄せあう。荒木に事実を問われ、タチバナは、ハヤマが自分を殺そうとした動機を説明する。半年前タチバナ同様、シンガポールに駐在していたころハヤマは、会社の品物を横流ししてポケットマネーに注ぎこんでいた。それに気づいたため、タチバナは生命を狙われたのだ。が、タチバナもまた俗物根性を発揮し、現地の上司には直接訴えず、その事実を使ってハヤマと取り引きするつもりだったのだ。「悪事を闇に葬るかわりに、専務の娘との婚約を解消させようと思った」。
 アキヅキはハヤマの裏切りを知り、ショックを受ける。「三年前、甘いことばに乗ってすべてを許してしまった、気づけば離れられなくなっていた、でも、それがハヤマのテだった」。自分の悪事を知ったアキヅキの口を封じるため、そして今度は、彼女の「献身的な愛情」を人殺しに利用しようとした――同じ裏切られたらもの同士、サワムラは、泣くアキヅキを叱咤する。憎しみを燃やして、一時間でも長く生きろ、と。
 荒木が眠りからさめると、他三人はぐったりしている。震える声で呼びかけ、頬を打っても起きない。「誰か来てくれ!」扉を叩いても反応はない。「ちくしょう……こんなところで死んでしまうなんて……」うずくまる荒木。と、ふいに顔色を変え、勢いよく起ちあがるとサワムラを揺さぶり起こし、妙案が浮かんだ、と言う。銃の薬莢の火薬で扉を吹き飛ばそうというのだ。
 サワムラは同意するが、アキヅキは自分の銃を渡すのに条件をつける。「もし脱出できたら、サワムラさんを逃がして欲しい」。
 それはできない、と荒木が突っぱねる。殺人未遂を犯したのだから、見逃すわけにはいかない。
 荒木とサワムラは簡易の爆弾を作り、扉を壊す。脱出に成功、荒木は顔を伏せて涙し、意識を取り戻したタチバナと抱きあう。本社まで送る、とタチバナに肩を貸し、振りかえるとハヤマが、銃口を向けている。
 荒木はタチバナを庇い、立ちはだかる。「あなたはサラリーマンだ、いくら出世に目がくらんだからって、ギャング気取りは性にあいませんよ」。ハヤマは動揺し、撃つぞと脅すが荒木はみじんも怯まず、にじり寄る。「女の愛情を巧みに利用することしかできないお前に、その引き金が引けるものか!」。後ずさりするハヤマに蹴りを入れ、遂に取り押さえる。が、それ以上は体が動かず、サワムラとアキヅキの逃走を見逃してしまう。
 本部。パトカーを失うわ殺人未遂の犯人を逃がすわ、「大失敗だった」と落胆する荒木をキャップが慰める。男女ふたりはいずれ警察が捕まえるだろう、それよりサウナ風呂に連れてってやろうか? といつもながら皆で軽口まじえつつ、励ましをくれるのだった……てな話。
※荒木主役! てなわけで、あらすじが長々しくなってしまいました。
・前髪に眉に霜つけ、眼の下に濃いクマこしらえた凄み走る顔で、拳銃もつ悪党に真正面からたちむかう荒木に欲情、じゃなくて惚れなおしました。なにが起ころうと冷静沈着であるべきガードマンらしからぬ感情の激発、人間的な弱みをあらわにしてしかも決して下品にならない、涙は伏せて隠すといった繊細な心づかい。衛星劇場のインタビューで川津氏が、持ち前のふやけた笑み浮かべつつ、自分は演技が下手で……と冗談か本気か見当つかない、自責的なものいいをしておられたのが印象的でしたが、今回の話を見るかぎりでもそんなことはない、断じてない! と納得できると思います。
まあ、高倉キャップや清水のような不死身の超人(?)と違い、荒木は欠席多数、ありえないとは知りつつもいつフェードアウトしてもおかしくないという不安がつきまとうため、死の恐怖を前にうろたえる姿に真摯な、切迫したものがある、といっても過言ではないかと。
 とはいえキャップも、怒りに我を忘れ、旧友を殺した犯人を撲り倒す第107話「古墳の呪い」、清水なら、生命をおろそかにして殺しあいに没頭する男たちに涙ながらに激怒する、第125話「屍にそそぐ涙はない」などで、人間臭さを垣間見せてもいますが。
 ガードマン側には身内間の葛藤、衝突などありえず、また事件の被害者・加害者に対しても大抵高みの見物をきめこんでいるため、考察しても深入りはしない。ゆえに、たまに彼らが感情吐露する場面にぶつかると、感動と同時に新鮮な驚きを覚てしまうのです。
・犯人を取りのがすという、このドラマとしては珍しい結末。二話完結でもよかったかも。まあ、考えようによっては(榊さんと同じく女性に)こころ優しい荒木がアキヅキとの取り引きに応じた、ともいえるわけですが、さすがに深読みか。恋人に裏切られたもの同士の逃走劇。これだけで一作できそう。必ず陰鬱なものになるでしょうが。