第135話「阿蘇のシンデレラ」

(脚本 加瀬高之/監督 土井茂/出演 夏圭子 ジェリー藤尾 内田朝雄 高林由紀子
全日空で東京から熊本空港へ、そしておなじみの「阿蘇白雲山荘」に榊さんが到着。高倉キャップ、小森さん、杉井君らと合流して警備の任につく。ホテルのロビーで榊さんは、スカーフとサングラスを着けた若い女性、ナカザワアヤコと知りあう。彼女は今日このホテルで、ブラジル在住・莫大な財産を持つ伯父さん夫婦に会うのが楽しみだと浮かれており、自室でもひとり小躍りするほどだった。脚の悪いアヤコは床に転倒、その拍子にスカーフがほどけて横顔があらわに。その左頬には醜い痣があった。アヤコは鏡の前で改めて、自身にめぐってきた予想外の幸運を噛みしめるのだった。
アヤコは幼なじみのミツエに「億万長者の養女」になれると報告。頼れる家族もなく貧乏にあえぎ痣のせいで男にももてず長年、辛酸をなめてきたために喜びを隠しきれない。ミツエは暗い声で、俯きがちに一応、祝福してみせる。だが、四十年ぶりに日本に帰国する伯父夫婦とは互いに顔も知らない仲だと聞いたとたん、ミツエは態度は豹変させ、アヤコの脚に石をぶつける。「不公平だ」「シンデレラには私がなる」。ミツエはアヤコを山小屋に捕縛、年恰好が似ているのを利用しアヤコに化けようと企む。ミツエの金銭に対する執着と貧乏暮らしへの憎悪は凄まじく、アヤコであることのしるし……痣をつくるため、熱したコールタールを頬に塗る。
伯父夫婦は巧く騙しおおせたミツエだが、今度はニシダというやくざ者に付き纏われる。ニシダは以前、アヤコを暴力で犯しただけでなく、結婚して自分も財産相続に預かろうと接近してきたのだ。」ミツエは山小屋に行き、アヤコを亡きものにしようとするが、尾けて来たニシダに逆に捕縛される。助けてやるかわりに結婚しろと迫るニシダ、拒むアヤコ。成り行きを見守っていたミツエは高らかに笑い、ニシダに取引を持ちかける。自分はあんたと結婚してもいい、一緒に財産を分捕ってやろうじゃないか、と。悪党二人はすぐに意気投合、養子縁組を果たすまでアヤコを監禁することに。
榊さんは持ち前の直観力(?)を働かせ、只ならない事件が起きているのではと推測。山小屋に向かうニシダを尾行し、岩場で揉みあううちにミツエに背後から撲られて気絶、アヤコとともに捕まる。勝ち誇るニシダ。だがミツエに眠り薬を盛られて昏倒。「あんたみたいなダニにたかられてたまるか」ミツエは拷問の快楽を愉しむように、意識のないニシダを馬に括りつけて引き摺りまわす。
ホテルに戻り養子縁組の手続きを済ませた後おじ夫婦に、おしとやかな態度で「ブラジルに出発する前に整形手術をして痣を消したい」と懇願する。ひとり部屋に戻るとアヤコ同様、鏡に映る自分と向きあい、ほくそえむミツエ。
アヤコから真相を聞いた榊さんは、一刻も早く窮地を脱し悪事を防ぐため、屋根の隙間から差し込む陽の光によって縄を断ち切ろうとする。寸前、拳銃を持ったミツエが現れる。万事休す、と思いきや全身泥まみれのニシダが割って入りミツエを襲い、絞め殺そうとする。縄を解いた榊さんがニシダを取り押さえるが、命の恩人でもある彼にミツエが銃口を向ける……てな話。

ミツエいわく、あんたなんか友達じゃない、自分の美貌を強調する引き立て役としてそばにおいていただけだ、と。こんな風に非人間的な、ある意味芯の通った悪女の冷血ぶりもまた、このドラマの醍醐味のひとつ。
自分を山小屋ごと焼き払おうとしたり銃殺しかけた悪女をも庇う、まさにフェミニスト(女びいき)と呼ばれるにふさわしい、寛大な榊さんの科白に惚れ惚れする。「あの阿蘇の火口の火のように執念を燃やす、正しく憐れな女……」。