「蔵の中」(ホームドラマCH)

津村節子原作。美容師の太地喜和子が昔起きた妖しい悲劇を回想する。母親(太地の二役)が田舎の金持ち(佐藤慶)の家政婦兼愛人となり、広大な屋敷で三人仲よく暮らすことに。だが佐藤慶には認知症の妻が居た。妻は食糧をたくわえた蔵の中に閉じこもり、藁人形に釘を打つなどして恨みを募らせていた。あるとき佐藤慶が急性アル中だかでぽっくり逝く。母親は村人たちから「奥さんを監禁している」「正式に籍も入れていないくせに」と罵られるが堂々と屋敷に居座る。異臭騒ぎがあり、蔵から妻の汚らしい亡骸が引きずり出された後も、既に色仕掛けで手懐けていた民生委員(ベンガル)の援助により、自由の身を保証される。そして遺産などいらない、金欲しさで佐藤慶とつきあっていたのではないと言い、潔く屋敷をあとにする……。
恍惚の人」状態の妻が蓬髪にべったりとはみ出た真紅の口紅、よれよれの白い着物と幽霊まがいの恰好でうずくまっている。それを少女が戸の隙間から覗き見る。また別のときには、母親と佐藤慶が抱きあうのを目撃する。母親が寝間着を乱し、何か叫んでいるが、子供の耳には悲鳴にしかきこえない……という風に少女は大人たちのひどいふるまいを見守るばかりで、積極的に物語に加わらない。蔵に閉じこもる妻に扉の穴から野菜を与えたりもするが、動物を可愛がるようなもの。ただ怖いもの見たさに突き動かされ、母親たちのひそかな愉しみ(罪)をやりすごすのみ。ラスト、成長した彼女はとあるビルの窓に蔵の窓を重ね、何者かに見返されたように立ちすくむ。疚しい過去に苦しめられるというより、いまだ魅入られたままのようでもあるのがおぞましい。
それにしても母親は、屋敷を離れてからも無事に働き、少女が高校を出るまで生きたというのだから、みじめに孤独死した妻とはえらい違いだ。見た目も埃まみれの幽霊のような妻に対し、厚化粧と豊満な姿態がなまめかしく差は歴然。不倫したことで裁きを受けるどころか度胸と策略で乗りきり、遺産に目もくれず屋敷を去る姿は颯爽としていて力強い。愛人が早死にするという誤算があったとはいえ、ここまで悪女がきっちりと勝利する物語というのも珍しいのではなかろうか。ちなみに村人がよってたかって母親を責めるところで、最近こんな〈田舎は地獄〉といわんばかりの映画を見たなあ、『丑三つの村』だっけか、と思っていたら監督が同じひとだった。