第165話「生きたまま火葬にしてネ」

(脚本 尾崎悠 増村保造/監督 弓削太郎/出演 多々良純 長谷川明男 富士真奈美 渥美国泰 田原久子 大泉滉)
 榊さんと荒木が警備するマンションに住む老会長は、無一文から三十億もの財を築いた偉人。が、いまや持病の心臓発作のせいで薬を欠かせず、会長職も名ばかりの閑職。加えて家庭にも居場所がない。彼は妻の不貞を疑い、いつ遺産めあてに毒を盛られるかとヒヤヒヤし、ついにはあらぬ策を思いつく。妾の息子と共謀して死ぬフリをし、妻が自分に忠実か否か試そうというのだ。
 息子は、自分に好意を持つ看護婦を口説き、診断書を盗ませる。会長が心筋梗塞で死んだと偽造、会社の関係者など一切閉めだした家族葬を行う。葬儀屋を追い払った後、会長は耳と鼻の穴に綿を詰め、棺に横たわり蓋する。準備万端、あとは出棺するのみ。息子は協力してくれた看護婦に帰宅するよう命じ、斎場を離れて別室で会長夫人に会うと、形相を変える。息子と夫人は会長を殺害すべく、この計画を逆手に取ろうと考えたのだ――「このまま火葬場のボイラーに焼かれて灰になるだろう」「早すぎた埋葬ってことね」「貧乏に一生あえぎ、死んでいった母親の敵討ちだ……それに、あの看護婦は知りすぎた。自動車事故にみせかけて殺そう」ふたりは笑う。自分で書いた筋書きで死ぬのだから、会長は馬鹿だ、と。
 息子は斎場に戻り、会長を縛りあげようと棺の外から話しかけたとたん、いきなり背後から殴打される。「人間バーベキューにされず、よかったわい」会長は看護婦に向き直り、安堵の笑みを漏らす。看護婦は夫人たちの会話を盗み聞きし、会長に死が迫っていることを知らせたのだ。息子を見おろす眼に憤怒が宿る。「このひとはわたしを裏切り、殺そうとした。許せない」
 ふたりは息子に麻酔薬を射ち、縛りあげると棺に寝かせる。あとは出棺を待つのみ。会長は息子の背広を着込み、下準備のため逃走を図るが、駐車場で荒木に呼び止められる。ことを急いた会長は、荒木を昏倒させて逃げるがその際、釦を落とす。荒木は、自分を襲った犯人は会長の息子ではないか、と会長の計略にまんまとハマッタ疑念を持つ
 翌日、会長は居もしない自分ソックリの弟に化け、葬儀にやってくる。妻は死体を見られないよう棺に釘を打つ。なかに誰が居るかも確認せずに。葬儀屋が来て無事出棺、荒木たちは堂々と部屋に這入り、箪笥をひらく。と、釦を失った息子の背広がある。では、息子はいま、何を着ているのか?――「わかったぞ!」ここで榊さんが高倉キャップに匹敵する超推理力を働かせ、事件のカラクリに気づく。
 火葬場。会長は遂に、妻に正体を告げる。自分の代わりに息子が焼き殺される、おまえとは当分ホテルでふたり暮らしだ、嫌なら生かしてはおかないと迫る。そこへ榊さんが到着、逃げようとする会長を捕縛、〈早すぎた埋葬〉が現実のものとなることを防いだのだった……てな話。

ひさしぶりに68年の話のあらすじを。増村脚本となると、黙ってはいられないものでして。ナントマア物騒な題名ですが、末尾の「ネ」が〈こう見えても中身はブラックなコメディーですよ〉と、親切に解説していると受けとるか、〈一見ブラックな剽軽さをちらつかせつつも、根本はもっとこう、どろどろ血みどろの腐った修羅場ですよ〉などと、イイ具合に邪悪な意味がこめられていると受けとるかで何かが違ってくる……かもしれない。