第147話「交通殺人」

(脚本 藤森明 増村保造/監督 富本壮吉/出演 江原真二郎 中原早苗 佐藤友美 原知佐子 稲垣昭三)
 「ホテルマウント富士」に泊まる男女。総務部長のカワモトとBGトミコ。ふたりは不倫関係にあり、毎度ホテルを変えながら逢引を続けていたが、トミコは、カワモトの煮え切らない態度に苛立っていた。カワモトは「大学を優秀な成績で卒業」し、アメリカ行きを控えたエリートサラリーマン。出世コースを順調に進んでいるものの、副社長の娘で妻レイコには全く頭があがらない。そのため家庭で従順を強いられ、欲求不満を募らせた結果、自分とつきあっている、「あなたはわたしの身体が欲しいだけ」とトミコは愚痴る。
 ロビーで一人カワモトは、自社の警備も勤める高倉キャップ、吉田さん、荒木に会う。宿泊の理由を尋ねられると「レジャー目的」と応える。そして、素性が知れないようトミコにサングラスを着けさせ、東京へ帰るべく車を走らせる。が、トミコとの口喧嘩に熱中するあまり、男児を轢いてしまう。男児は、四年前に死んだ父親の墓参りから母親と一緒に帰るところで、母親が目を離した隙に車道に飛び出てしまったのだ。カワモトたちは、顔を引き攣らせ、血まみれの男児を置き去りにして逃走。人目につかない場所で車を乗り捨て、血痕を拭き消し、身元がばれないようナンバープレートを外し、エンジンナンバーを叩き潰す。無人の別荘に来ると、カワモトはトミコに「二、三日隠れていろ」とひとり東京へ。
 男児は、病院で手当てを受けるが、意識不明の重態。頭部の怪我が酷く、医者の危惧通り脳内出血が起き、手術のため輸血が必要となる。キャップたちが血液提供を申し出るが、母親は、男児をひとりにした自分を責める。入院費などの経済、精神的負担も重い。
 一方カワモトは、ブレーキ音の幻聴や頭痛、目眩に苛まれていた。会社を早退し、別荘に戻るとトミコに食料を渡すが、トミコは自分ひとり身を隠さなければならないことを不服に思い、あなたが轢いたのだから「警察に自首した方がいい」と突き放す。が、カワモトは拒絶する。「悪質なひき逃げだ、何千万もの慰謝料を要求される」「殺人罪で起訴されるかも、一生を棒に振りたくない」。
 会社でカワモトは、目眩を起こし倒れる。警備室に担ぎ込まれたところへ、吉田さんが「ひき逃げした車は、この社の総務部BGトミコのものだ」と報告。カワモトは急ぎ帰宅し、電話でトミコを宥めようとするが、それを妻レイコに聞かれてしまう。必死に弁明するが、怒り心頭に発したレイコは離婚を決意、ついには自室に閉じこもる。カワモトは狂乱の態で扉を叩き、叫び、力なく壁に凭れかかる。と、不意に妙案を思いつき、陰湿な笑みを浮かべる。
 キャップは一連の事態から、カワモトとトミコが恋仲であると勘付く。荒木とともにマンションを見張り、車を尾行。カワモトは目眩に耐え、なんとか別荘に到着。トミコに「きみはぼくの命だ」「地位も財産も要らない、女房と別れてきみと暮らす」と、ことば巧みに囁く。次いで「遺書を作れ」「ひき逃げを苦に自殺したと見せかけて、ふたりで大阪あたりで暮らそう」などと持ちかける。トミコが恋人の心変わりに素直に感激し、早々に遺書を書き終えるとカワモトは、薬品を染み込ませたハンカチを押し当てる。トミコが気絶したのを見はからい、殺害しようとした瞬間キャップと荒木が現れ、あえなく御用。
 連行される途中、カワモトはキャップたちに、男児が入院している病院はどこかと尋ねる。荒木は戸惑うが、キャップは、あえて男児に面会させようと決意。病室の前に来てみると、吉田さんが泣いている。「一時間前、息をひきとった」と声を震わせ、カワモトを見ると「なぜ逃げた」と掴みかかる。カワモトは呆然とし、泣き疲れ微動だにしない母親、そして男児の亡骸のそばへ歩み寄る。「この償いは、きっと、金を用意して……」「金なんて役に立つか!」キャップに怒鳴られ、カワモトは、藻掻くように壁に寄りかかったとたん目眩の果て、失明する……てな話。
※二話ほど飛ばしてますけど、ま、おいおいに。
クルマ社会批判がテーマなのだろうけど、見所はやはり、エリートサラリーマンの堕ちゆくさま。母親役の中原早苗の泣き疲れた様子、男児を見つめる眼差し、歪めた唇がまた恐怖……ではなくて、堪え難いような哀切を誘う。ちなみに、カワモトの失明の原因は「ハンドルで頭を打ち、視神経が麻痺したため」。