第328話「セックス解放の海!真夏の殺人」

(脚本 山浦弘靖 清水啓司/監督 小西通雄/音楽 伊部晴美/出演 春川ますみ 岸田森 平泉征 大橋一元 当銀長太郎 河村祐三子)
梅雨空のもと、ガードマンの荒木と杉井君が現金輸送車ごと「東京湾フェリー」に乗る。それを見守る三人の若い漁師たち、ツトム、タダオ、エイジ。彼らの目的は現金九千万円の強奪。みな同じ漁村で生まれ育った幼馴染なのだから、確実に均等に分けようと念を押す。ふと彼らは、見知った顔の船客が居ることに気づく。網元の息子、現在は東京でサラリーマンをしているシンヤ。エイジたちは、シンヤの態度が遊び仲間だった頃と違い、都会人を装いお高く澄ましているようで苛だつ。
港に着くとシンヤはハルミと再会。病気療養は口実で、きみに会うため帰ってきたと言う。ハルミは喜び、自分が営む民宿に招く。二人をエイジたちが取り囲み、やっかみ半分冷やかしているところへ、ハルミの妹アサコがふらふらと歩み寄る。雨のなか傘もささず素足で、真紅のワンピースをずぶ濡れにして平然と笑みを浮かべ、薄汚れた人形を抱いている。両親を亡くした後、二人きりで暮らしているという姉のハルミは、嘆息まじりに呟く。「今年の夏から気が狂ってしまったの」。
アサコは注目を浴びて昂奮したように、いっそう不気味な笑い声をあげる。
「みんな死ぬ。この雨にうたれて、みんな死ぬんだわ!」
荒木たちは千葉の缶詰工場に金を運ぶため、フェリーボート「とうきょう丸」に乗りこむ。エイジたちもアクアラングを装着し、計画を実行すべく海中に潜る。それを見つめ、笑い続けるアサコ。
スクリューにワイヤーが絡まり船が停止。エイジたちが侵入、荒木を水中銃で脅す。杉井君が加勢するも、三人は客を人質にとり、現金ケースをもって海中へ逃げる。そしてそのまま、ほとぼりがさめるまで海に金を隠すことに。
警察が漁船を調べにきた際、エイジたちは揃ってしらばくれるが、いつのまにか船室にひそんでいたアサコに仰天、それでも何も知らないと言い張る。荒木たちは三人を不審に思い、証拠をつかむためアサコに食いさがろうと案じる。
ハルミの民宿。シンヤはハルミが病んだ妹の面倒をみなければならないことに同情し、店をやめて結婚しようと言う。だがハルミは拒む。
理由は、妹を狂わせた連中に復讐するため――この村の漁師たちは、以前は真面目に働いていたのに、夏のレジャーシーズンに押し寄せる都会人のデタラメさに感化されてすっかり堕落し、賭けごとやら女遊びにうつつをぬかすようになった。ある晩、アサコがひとり海岸を散歩していると、何人かの男に犯された。自殺をはかったものか、浜にうちあげられ、ハルミが助け起こしたときにはもう、気がふれていた――犯人は解っている、とハルミは断言する。エイジたちのしわざに違いない。絶対に仇をとる、と震えるハルミにシンヤが「自分も協力する」と励ます。泥を吐かせる良い策があるという。
警察は犯人が既に高飛びしたものとみて、捜査を打ち切っていた。 荒木と杉井君は梅雨時だというのにお揃いのトレンチコートを着用、自分たちだけで犯人を捕らえ、金を奪い返すべく計略を練る。荒木が杉井君に「陰からの援護」を頼む。
民宿一階の飲み屋。警察がひきあげたことを知り、エイジたちがさっそく金を取りに行こうとすると、荒木が入って来る。カウンターの席に座ってもコートを脱がず、いつものように気障たらしく顔顰めて煙草を吸いつつ、ハルミに「犯人に刺された傷がまだ治らない」「当分、この村で静養する。一ヶ月か、二ヶ月先になるかは解らない」と語る。エイジたちは荒木に絡み、水上スキーの板で殴りかかる。が、シンヤが三人を追いだす。
タダオがひそかに船を出し、金を独り占めしようと企む。現金ケースを手に入れ、船上にのぼったとたん、何者かにスパナで頭を殴られる。水死体と化して引きあげられたタダオをアサコが睨み、あざ笑うかのように「みんな死ぬ」と再度呟く。ツトムとエイジは隠し場所に行き、ケースがないことを知る。互いに疑心暗鬼におちいり、喧嘩に。
タダオの通夜の席。エイジたちは、現金ケースに貼られていた東パト社のマークをアサコが持っていることに驚く。ツトムはアサコが何か隠したとおぼしい、紫陽花の咲く海岸へ出向きケースを発見。それをエイジに見られ「独り占めする気か」とまたも喧嘩に。が、ケースをあけると中身は砂、肝心の金がない。アサコがすぐそばに立っているのに気づき、二人はここが「例の場所」であると思いだす。逆上し、金のありかを訊くためアサコをつかまえようとするが、荒木が止めに入る。荒木とエイジが揉みあうさなか、ツトムの悲鳴が。
ツトムはこめかみから血を流し、死んでいた。二人目の友の怪死に、力なく蹲るエイジ。
やまない雨。民宿。荒木が杉井君に「水上スキーをひとつ用意しろ」と電話で伝える。アサコはひとり、子守唄をうたいながら浜へ。小屋に入ると籠をひっくりかえす。と、中には大量の札束が。そこへエイジが現れ、アサコから九千万を奪おうとするが、尾けてきた荒木と取っ組みあいに。突然、シンヤが荒木を不意打ちし、気絶させる。「同じ村のひとだから」助けたというハルミに、エイジは率直に感謝する。
三人は協力し、伸びたままの荒木に錨を抱かせて縄で縛り、海へ放り投げる。荒木は意識を取り戻すが、縄がほどけず息も絶え絶え、再び瞼を閉じる。即座に杉井君が救助に向かう。
エイジがハルミたちに、助けてくれた礼に金をわけてやろう、と言う。対してハルミは、そんなものいらない、妹をおもちゃにしたのは自分たちだと白状しろ、と詰め寄る。遂に謝罪のことばを吐かせると、金を隠したのは自分たちだ、お前らの罪を暴くためだと打ち明ける。
「俺たちだけがアサコを襲ったんじゃない」エイジが苦しまぎれに、真相を告げようとしたとたん、シンヤがスキー板で殴り倒す。と、アサコが「恐い!」と絶叫する。
「うるさい! 気違い!」シンヤが形相変え、アサコを押しのける。その瞬間、アサコが正気を、記憶を取り戻す。エイジたち三人以外に、シンヤが居たことを。自分たちの悪事を告げぐちされては困るなどと言い、執拗に、何度もスキー板で殴りつけてきたことを――「私を襲って、殺そうとした!」
本性をあらわしたシンヤは、逃げる姉妹を浜へと追いこむ。水中銃を突きつけ、ツトムたち同様殺そうとした瞬間、荒木がスキー板もち立ちはだかる。荒木たちは、アサコが板を極端に恐がることから、それが記憶喪失に関係するのではと推理、村でただ一人の持ち主であるシンヤをひそかに監視していたのだ。
シンヤは東京で派手に暮らすため、会社の金を何百万もつぎこみクビになった、そのため大金を欲していたのだ。「みんな死んでもらう」唇ゆがめて笑い、銃をかまえ荒木に詰め寄る。
後ずさる荒木がふいに、勝ち誇るように前歯を覗かせる。動揺したシンヤが、振りかえると杉井君が立っていた。その隙を逃さず荒木が銃を叩き落し、組み伏せる。「ガードマンはひとりじゃないんだ!
ハルミが泣き叫び、シンヤをなじる。「こいつはアサコだけじゃない、私もおもちゃにしたんだ! 殺してやる!」飛びかかろうとするのを、荒木が食いとめる。気持ちはわかるが、制裁は法律にまかせなさい、と。姉妹は紫陽花の咲く浜辺に行き、泣きくずれる。
それを苦い表情で見つめるシンヤの手から、札束が滑り落ちる。
東パト社本部。「現金強奪事件の陰に、やくざな漁師たちの悲劇があったのか」と、キャップがテキトーに締めくくる。純朴な漁師たちが都会に感化されたゆえの、いわばレジャー公害ってやつですかね、と小森さん。
 杉井君がほほ笑む。「雨があがりましたよ」。七人は窓辺に近づき、長い梅雨の終わりと同時に、ひとのこころを危うくさせるレジャーシーズンの到来を告げる、青空をあおぐ……てな話。

・音楽が大塩潤(渡辺岳夫)から伊部晴美に変更。
・ラスト、杉井君が雨あがりの空を眺めて笑うさまは、第271話「怪談・雨の幽霊病院」のそれと共通している。ここではそう単純に、梅雨あけを歓迎できないのだけど……。
銃口突きつけつつ非情な笑みを浮かべる森さん、それに対抗するかのように晴れやかに笑う荒木。最高。個人的には、この対決は〈事件〉です。