『花実のない森』(日本映画専門CH)

原作は松本清張。他にいくらでもあるだろうに、このファム・ファタール物を映画化するあたりはさすが(?)大映。タイトルバックの赤い光線と、鍵穴から覗いたような女の瞳は美しいが、池野成の音楽が怪談映画じみていて笑える。脱衣場で文子さまを押し倒す田村高廣がすばらしい。天知版明智の「宝石の美女」で、彼が女風呂を盗み見る貴重な場面を思い出した。また、白髪鬼同様、邪悪な二面性をもつ船越英二が圧倒的で、主人公・園井啓介の、愛人さえも遠慮なく利用したストーカーぶりも霞む。園井が真相を明かしたために夫婦は滅んだのだと考えると、帰りの電車でのんきに総括している場合か、自分の責任を省みる気はないのかと苛立たしい。真犯人の正体よりも、『陸軍中野学校』シリーズで雷蔵の相棒を好演した仲村隆が文子さまの最愛の男であることに衝撃を、江波杏子のあつかいに不憫さを覚える映画。