第337話「奥さんがよろめく時殺人が起る」

(脚本 山浦弘靖/監督 井上昭/出演 緑魔子 吉田輝雄 田村寿子 久米明 松川勉)
 「ユニオン商事」課長サカグチは、出世欲の強いエリートサラリーマン。彼は仕事に明け暮れ家庭を顧みないながらも、ひとり娘のユリを溺愛していた。一方、妻ナツコは夫からの愛情に飢え、白馬の絵を描くことでそれを癒していた。いつか馬に乗ったナイトが現れ、夫の代わりに惜しみない愛を注いでくれることを無意識のうちに託して。そうして絵に熱中するあまり、ユリがひとりで外に遊びに行くのを見過ごしてしまう。人形を抱え、転がるボールを追いかけていたユリは、十字路で車に轢かれ絶命。
 通夜の席。ナツコはショックで半狂乱になり、寝室に閉じこもる。そこへサカグチが押し入り、果物ナイフで絵を引き裂く。「この絵がユリを殺したんだ!」ナツコは自身を責め、睡眠薬を飲む。が、サカグチの妹で精神病医学を学ぶインターンのリエ、その婚約者でサカグチの部下ヤブキに救われる。サカグチは鬱屈する一方のナツコを眼前から追い払うべく、家を出て静養するよう命じる。
 ナツコは荒木と小森さんが警備する、湖に面した貸し別荘にやってくる。ユリの写真を眺めたり、似顔絵を描いて時間を潰すが、悲しみは増すばかり。元は精神病院の看護人だったという、世話役のクワエを避けつつ日々を過ごすうちに、彼女はユリの幽霊を見るようになる。寝室や黄金色の湖面、真夜中の林の中で。はては夢の中でも、ユリの死体を抱きしめながら夫に殺されかける。覚醒した後もユリの泣き声が、呪詛が聞こえる。次第に心蝕まれ、血色失い窶れていくナツコ。
 ある日、リエとヤブキが別荘を訪ねてくる。サカグチに世話役を命じられたリエと違い、自分の意志でやってきたというヤブキが励ますと、ナツコは「白馬に乗ったナイトは、あなただったのね」と微笑む。リエはふたりの関係を疑い、ナツコに「婚約者を誘惑して盗みとるつもり」かと苛だつ。
 その晩もユリの泣き声を聞き、ナツコは林の中へ。暗がりの奥に進むと、不意にクワエが現れ、ナツコを押し倒す……荒木たちが声を聞きつけ、駆け寄るとクワエの死体が。傍らにはナツコが、袖を裂かれた血染めのネグリジェを着て、放心状態で突っ立っていた。
 リエは、ナツコの気がふれたと言い張る。対して荒木は、精神異常者の絵とは大抵グロテスクなものだが、奥さんの絵はまともだと応えて画布をめくる。と、三つの赤い眼が出鱈目に浮かぶ、奇怪な女の絵があらわれる。「完全な精神異常ね」リエは満足げに笑い、ナツコに注射をうつ。そして事件の報せを聞いて駆けつけたサカグチに、ナツコがヤブキと通じあっていたと暴露する。
 サカグチは部長に、家庭内の揉めごとを解決するよう、強制的に休暇を取らされる。これで出世の道が断たれたと思いこんだ彼は、すべての災厄をもたらした元凶、ナツコに怒りをぶつける。ヤブキとの関係を糾弾し、妻が潔白を主張しても耳を貸さず、何度も頬を打つ。「可愛いユリを殺しておいて、浮気までするとは!」
 雷鳴轟く夜。明かりのない寝室。ナツコはヤブキに電話で助けを求める。夫に殺される、と。夫が這入ってくるなり叫び声をあげ、気遣うように寄り添おうとするのを拒絶する。ヤブキとリエが到着すると、ナツコはリエを押しのけてヤブキに縋ろうとする。
 そこへ部長が登場。事件の筋書きを書いたのは自分だと告白、ヤブキもまた本性をあらわす――人形を使ってユリの幽霊を出し、怪物の絵を描き、ナツコを精神的に追いつめて自分によろめくよう仕向けた、クワエを殺害したのは、ナツコが強姦されたのを苦に自殺したのでは、筋書きに反するからだ――なぜそんな(手のこんだ)真似を? というサカグチのごく自然な問いに対し、部長は、キミのような優秀な社員は邪魔なんだ、上にも下にも、と出世競争が動機であると語る。悪党サラリーマンどもは、さも三人が殺しあったように見せかけて殺害、別荘に火をつけようと企む。そこへ荒木と小森さんが止めに入り、事件解決。
 サカグチは出世欲に憑かれ、家庭を蔑ろにしてきた過去を悔やむように辞職、元気になったナツコを抱きしめ、夫婦であることの歓びをしみじみと味わうのであった……てな話。

久米明は、このドラマでは〈真面目な善人に見えて実は悪人〉という役が多い。そのため登場した時点で(怪しい)と思いはしたけど、予想的中。あまりに見え透いていてトホホ。殺人の動機が出世競争というのもまたトホホ。こどもの幽霊に関しては、インターンの妹が幻覚剤でもうったのかと想像していたのですが。