『カールじいさんの空飛ぶ家』

カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)
アポロシネマ8で。本編前の『トイ・ストーリー3』の宣伝でもう胸が熱くなった。短篇「晴れときどきくもり」の汚れ仕事(?)を引き受けた者同士の友情、無声映画風に綴られるカール爺さん夫婦の回想、秘境に家を不法投棄するラストに至るまで年甲斐なく泣きつづけた。いや不法かどうかは知らないけど、結構な数の家具を撒き散らしたものだなと。大事な思い出がつまった家を「たかが家だ」と笑顔で言い放つ心変わりも沁みた。死んでもなお夫の尽力で夢をかなえる妻エリーは途方もない果報者だ。もちろん夫も。幼い頃からカールを冒険へと駆りたて添い遂げた彼女は、共通の趣味で盛りあがれる恋人を求める消極的なおたく男子のドリーム。誤解からカールと敵対するマンツは『グラン・トリノ』の排他的なクリント爺さんのようにライフルが似あう。老いた男たちによる杖がしなり入れ歯が舞う壮絶な決闘に燃えた。犬が人語を解する装置を発明するほどの天才なのに数十年かけても怪鳥を捕まえられない間抜けさはどうかと思うが。間抜け面といえば鼻が栗まんじゅうみたいな犬のダグ。獰猛な犬の群れに混じっているのも謎なわさわさに膨れた奴だが、肥満児ラッセル同様とてもチャーミング。エリザベスカラーは犬的にも滑稽で恥ずべきものと認識されていると知れたのも意外な収獲だった。