『灯台守の話』『神の息に吹かれる羽根』他

読書めるも。

ゆきこんこん物語

ゆきこんこん物語

女の足指と電話機―回想の女優たち

女の足指と電話機―回想の女優たち

灯台守の話

灯台守の話

正直、作者の物語への「絶対的な信頼」にはついていけないところも。自分は「物語」によって悲惨な人生から救われた、だから断固支持する、というのはわかるのだけど。私はそこまで「物語」の力を信じることができない、というか両極端な感情(愛憎)を持っているので。「物語」は愉悦をくれるものというだけでなく、自分も他人も傷つける怖れのある危険物だと考えているから。でもウルフみたいに心地よい文章と、前置きなくさらりと同性愛を語る場面には感動。デビュー作を既に読んで作者の性嗜好を知っているから、すぐにそれとわかってしまうのだけど、そうでない人は「あなた」が女言葉を使うところで面くらうのではないだろうか。
神の息に吹かれる羽根 (フィクションの楽しみ)

神の息に吹かれる羽根 (フィクションの楽しみ)

題名は聖ヒルデガルドのことばからきている。語り手の「わたし」は中国系パナマアメリカ人の父親、ドイツ人の母親とのあいだに生まれた混血者。複雑な家庭環境に悩まされ、心を病むほど愛情に飢えている。バレエに夢中になるも挫折。やがて移民相手の語学教師になり、ロシア人男性との不倫の恋を経て上海行きを決める。これらの過去はわたしじしんだけでなく、両親や恋人の人生で構成されている。というより、他者にまつわる記憶の断片がわたしを規定している。わたしの外側にあったもの、見聞きしたものの詳細をきわめた寄せ集めでできている。わたしの物語は重層的な他者の物語。本書はこのいまさら強調するまでもない、「あたりまえのこと」に貫かれている。そして読者は、母国に郷愁をいだきながら帰れるわけもなく逸脱した生き方しかできない、家庭さえ癒しにならない移民たちの苦しみをわたしとともに追体験する。