滝田栄『滝田栄、仏像を彫る』

滝田栄仏教徒として禅に学びインドを訪ね、観音菩薩阿弥陀如来像を彫るまでの「自分探し」の記録。地味でまじめな役者というイメージしかなかったけど、その素顔は、意外にも胸中に激情を抱えた人だった。彼は舞台に立つ際、観客全員を満足させようと限界を尽くす。背中の筋肉を切り、激痛に襲われ呼吸もできない状態でも、手抜きなく芝居に挑む。
また、欲深い人々が跋扈する演劇界、誤報も辞さず対象を叩くマスコミ、大義なき戦争を仕掛ける指導者や企業への怒りを隠さない。怒りの根源は「仏陀の慈悲そのもの」であるとし、「私は世界の真ん中で馬鹿野郎! と叫びたい。そんな気持ちで、大きなお不動様を彫っています」。
家族への愛も惜しみない。亡き母親たちの偉大さ、愚かさを冷静に指摘し、一生を称える。供養のために檜材で観音菩薩像を彫る。この、彫刻にかける意気ごみもすさまじい。一日じゅうノミを打ちつづけたせいで身体がまっすぐに伸びず、そのままジョギングにでかけて膝を痛めたこともあったとか。単なる芸能人の趣味ではすませられない、思い入れのほどが伝わる。
現在、時代劇専門chで放送中のNHK大河ドラマ草燃える』では、北条との権力争いと恋に破れ、悪逆のはてに聖(ひじり)となる伊東十郎祐之を演じている。無恥や強欲を拒み、「仏陀の教え」を追求する彼には、まさにはまり役といえる。残念なのは、現存するのが総集編と、全51話のうち18話分だけってこと。滝田栄の熱演はもちろん、人肉食の場面をちゃんと見たいのだが。
[rakuten:book:12079823:detail]