『ウォッチメン』(アリオ八尾)

・原作を未読なため充分に筋を追えなかったのが悔しい。でも退屈はしなかった。
とにかく人や物が四散する映画。窓ガラス、火星の「楼閣」、ベトコン、ヒーローが容赦なく飛び散らかす。爽快。また、妊婦を射殺、女を強姦しようとして顔から血が出るまで暴力をふるう、肉体切断、いじめっこの顔の肉を齧る、野良犬の群れが千切れた子供の足をくわえるといった、惜しみない残虐描写もあって至れり尽せり。でも、展開が早すぎるためか個々の場面にとどまっている暇がないし、人がいかにむごい仕打ちをうけようと、目を背けたくなるほどの醜悪さや、落ち着く先のみえないような不穏さもなくて、全体的にお安くライトな印象。
・あと、恋人たちの痴話げんかに時間をさくよりかは、肝心の、正義を追及した末の大量殺戮を、そしてその後に実現したラブ&ピースな世界をじっくりみせてほしかったのだけど。まあ、初代と娘の唐突な仲直りつーか居直りの気色悪さが、それをほんのちょっと覗かせているともいえる。
・音楽の使い方とセックスシーンが、真面目なのか不真面目なのかよーわからず笑えた。二世同士がセックスする経緯が既にばかばかしい。『地獄の黙示録』の「ワルキューレの騎行」にのってベトコン大虐殺、あげくアメリカが勝利するという驚くべき歴史修正にしても、それでも国や人心は荒廃し、殊勲者であるヒーローたちが疎んじられるというオチも。
・リベラルなインテリを口先だけの偽善者とみなし、忌み嫌っていたロールシャッハが、しまいには(流れにまかされる他の仲間と違って)もっとも穏当な正義、人命優先を叫ぶのはナカナカの皮肉ではないかと……極右ファシストって設定らしいが、映画をみるだけでは、単にリベラルが嫌いだとかブツクサいってる貧乏白人にしかみえない。ちなみにロールシャッハ役の俳優、『がんばれ!ベアーズ』の腕白少年だと。その後の転落人生がしゃれにならん。
・細部へのこだわりがすごい。あらゆる壁に絵画や写真、落書きまみれの宣伝などが隙なく貼られていて、事件をよみとく鍵があるのかと思い、隅々まで注意を配るうちに、説明的な科白(字幕)をみのがしたことも、いまいち理解を深めることができなかった原因。〈マンガなら一こま一こま、舐めるようにみることができるのに!〉とふたたび悔しがり。DVDでまた、Dr.マンハッタンの神々しい裸身のついでに、全編つぶさにみかえしたいです。