被害妄想

自分だって、苦しい局面に置かれると被害妄想にはまりがちな人間だと思う。
が、それでもやはり他人がはまっているのを見聞きすると、その痛々しさに思わず陰湿な笑いがこみあげてくるのはどうしようもない。笑いで距離を取らざるを得ない。
で、今日の柳美里さんの日記。なーんも書くことがないときの「今日のできごと」ウォッチ。
柳さんは子供が嘘ばかりつく、自分たちばかりでなしに周囲にまで迷惑をかけてしまったということで大変、お怒りの様子
「あまりに嘘つきなので(そして次から次へと嘘をつきつづける)朝7時から15時までひっぱたきまくり、学校休ませ、罰として朝食も昼食も与えていません」

多少の誇張はあるやも知れませんが、お上品で良識ある一般人を自認するひとびとには「そりゃ虐待すれすれの折檻じゃねーの」と突っ込まれるのでは。無論、柳さんはそんなもん犬に食わせて終いでしょうが。わたしはというと、もはやこの程度の記述ではいちいち驚きもしないけれど(それはそれで危ういような……)。
とはいえ、その直後の「このまま育ったら、嘘つき演技型の犯罪者になるかもしれない」には引っくり返りましたが。
しんどいときってどうしてもいろいろな妄想めぐらしてしまうものですけど、大概のひとは口に出さず、時が経つにまかせて何を考えていたかさえ忘れてしまうものですが柳さんの場合、それを逐一書いてネタにする、売文するということで毎度毎度、恥の切捨てならぬ恥の切り売りをしているわけでして……嘘つきって欠点は、確かに親として見過ごせないでしょうけど、にしても「嘘つき演技型の犯罪者になるかもしれない」は一足飛びというか、その間にある筈のもろもろを振るい落とし、いきなり禍々しい極端へと突き抜けているなあと……いやだからこそ、まさに妄想だなと。十歳に満たない子供にそんな危険性を見る痛々しさ、しかも真面目に率直に書く痛々しさ、これまたやはり、柳さんならでは……って締めくくりがいつも同じなんだが。


追記(2月5日)。
とうとう読者が児童相談所に通報、児童福祉司の訪問を受けたそうで。昨日の時点でこのような事態が起こるのではと予想はしておりましたが。で、これまた予想通りの柳さんの対応。
ひとことだけ言っておきますが、「今日のできごと」は、「交換日記」と同様に、広義な解釈で「フィクション」です。どういう写真に、どういう文章をつけるかは、かなり計算しています。ポイントは、読むひとの感情をいかに煽るか、です。紙媒体への原稿よりも、生で感情的な表現を選んでいます」。
で、事実と誤解して踊らされてやんの、釣られてやんのバーカ、バーカ! と興奮してらっさる。昨日の日記でわたしは「多少の誇張はあるやも知れませんが」と書いたけれど、まあ、そらそうだろうと。私小説家の日記だからって全部事実であるわけないのは自明だろうと。というか、たとえ子供に対する虐待が事実だと判明し、なんらかのお咎めがあったとしても柳さんなら、それを我が身の「不幸」としてまた売文するのであろうなあと……被害者面の旨味は底知れず。とりあえず何事もなくてよかったねー、と。
自分の書くものはあくまで「フィクション」です、という反論は、『石に泳ぐ魚』の場合と同様。今回もそう来るだろうなーと思えば、やはり。予想的中、喜ばしい(嘘)。「嘘つき演技型の犯罪者になるかもしれない」ということばも、柳さん流の誇張表現の一種ということになるのでしょうけど、だからといって、その妄想の過剰な跳躍力の面白さは減じない。
あと、「『柳美里不幸全記録』のほうが、ギャクタイの疑い濃いぜ。2ちゃん人権らーのみなさぁん! アレは時効れすか〜?」などという挑発も、ええ感じに火に油注いでいて見事な、つうかなんとも稚拙な悪びれっぷりですが。「2ちゃん人権らー」って罵倒語(?)、わたしは初耳なのですけど、なんか通俗的な「2ちゃんねらー」理解からズレていて、興味深いものがありますです。