第217話「教育ママ殺人事件」

(脚本 増村保造/監督 富本壮吉/出演者 原知佐子 加藤治子 名古屋章 長谷川哲夫 堀井永子 小笠原良智 篠田三郎
唐突ですが再開。今後も好きな回だけ感想を書きます。
「永和金属」社員寮。原知佐子の夢は息子を私立の名門「メイカ大学」付属小学校に入学させること。低学歴の夫が会社で出世できない現実に不満を抱き、せめて息子は立派になって欲しいという思いから厳格な教育ママになる。だが予備校講師から合格は無理と言われてショックを受ける。最後の手段として同じ寮に住む「メイカ」の教師に取り入ろうとするが、彼は原の執拗な泣き落としを嫌い賄賂も受け取らない。専務の妻・加藤治子から「あの先生が居るかぎり入学できない」と聞かされ、原は絶望的な心境で再び教師の部屋を訪ねるが、彼はナイフで胸を刺されて死んでいた。
原は驚き逃げたところを化粧品のセールスマンに見られ、釈明しようと彼の高級マンションに出向く。彼は黙認する代わりにコールガールになれと無茶を言い、原が拒むと絞め殺そうとする。高倉キャップたちが助けに入り、二人とも警察で取調べを受けるが、セールスマンは原に脅されてやむなく抵抗したと嘘をつく。原は殺人事件の被疑者として留置場へ。自分が逮捕されては息子の試験も台なしになる、それでも自分が死ねば同情から合格させるかもしれないと思いこみ、舌を噛んで自殺しようとする。
キャップとキタ刑事(名古屋章)はセールスマンを疑い、わざと釈放して監視する。彼はラブホテルで教師を殺した真犯人である主婦と密会し、またも一生自分のために金を稼ぐよう命じる。揉みあいになったところへ、キャップたちが乗りこんで事件解決。原は釈放されると改心し、息子の受験をあきらめる。夫がスキャンダルを嫌う会社を辞め、社員寮から追いだされることとなったが、三人の表情は晴ればれとしていた……。

夫の会社は大半が同じ名門大学出身者で占められており、そうでない夫は出世しても総務課長どまり。でも息子は夫以上の地位につかせたい。そのためには受験戦争に勝たなければならない。息子が夕飯もろくに食べずに勉強するのも当然だし、妊娠しても二人めの子供に時間をさく余裕はないから中絶する。息子が不甲斐ないとわかれば無益な正義感など捨て、教師に賄賂を贈ってでもコネをつくらなければならない……という風に原知佐子が奔走するのだけれど、全てが裏目に出る。息子が口頭試問で結果を出せないのは、原が他の子供やガードマンさえ「言葉づかいが悪くなる」などと言って寄りつかせず、陰気な性格になってしまったため。息子を憐れむ夫とは険悪な関係になる。同じ寮の主婦たちからはみっともないと嘲笑され仲間外れにされる。頼みの綱である教師からも疎んじられる。遂には殺人の疑いをかけられ自殺未遂を起こす。壮絶な転落。一応結末では家族仲も安定し、笑顔で新たにやり直すことを誓うけれど、夫の退職という代償は重い。常軌を逸した教育ママが自分の行いのまずさに気づくには、悪漢の暴力にさらされるばかりでなく監獄で舌を噛み切らねばならない、というような追いつめ方も充分過剰。原の昂奮するにつれて更に顔が角張る狂乱演技と、増村保造作品の特色である、単純な図式の網目から吹きこぼれたやりすぎ感に呑まれる怪作です。
初登場(?)専務夫人の加藤治子は、事件になんら絡まず出番も少ない。それでも仲良し主婦を集め、化粧品のセールスマンとともに昼間からブルーフィルム上映会を開いたりと、原とは対照的に華やかな生活を送りながらもある意味同じく倦怠と欲望を持て余している様子が描かれており、事件の発端となる売春と合わせて、主婦の淫靡な「実態」を覗かせる役割を担っています。マア加藤さんが演じなくても全然オケーなことに変わりないのですが。篠田三郎は今回も端役。後ろ姿しか映らないラブホテルのフロント係。でも満足。『哥』(1972年)の屈折した青年みたいな澱んだ低音声にハートをわしづかみされました。