第207話「今晩は宝石泥棒デス」

(脚本 池田雄一/監督 土井茂/出演 玉川良一 若水ヤエ子 稲野和子 酒井修 篠田三郎
ここ最近、立て続けにビル荒らしが発生、被害総額はおよそ二億円にのぼる。世間では賊を「和製怪盗ルパン」と呼んで怖れていた。マツノ夫人の邸宅にも黒装束の賊が侵入、高級ダイヤ「女神の涙」を盗まれそうになる。夫人は「ガードマンの小森」を騙る男に警備を依頼。その正体は前科八犯のコソ泥、「怪盗アンパン」ことシムラゲンゴロウ。彼とマツノ家の女中のおばさんが山中湖で開催される宝石パーティに同行することに。
テルマウント富士でシムラは、保険会社から派遣された本物の小森さんと再会する。「男が惚れた男!」「アニキ!」と調子よく持ちあげるシムラ。が早速銀の燭台をくすねるなど手癖の悪さは変わらず。小森さんは宝石を守るとともにシムラを監視することに。大広間で宝石パーティがはじまると、マツノ夫人と女友達が「女神の涙」やルビー、エメラルドを見せびらかす。そのとき明かりが消え、何者かに宝石を盗まれてしまう。小森さんと清水がシムラを締めあげるが、不意に現れた謎の男に拳銃で脅され、宝石を奪われた挙句取り逃す。急ぎホテルを封鎖するも、男の足どりは全く掴めない。マツノ夫人たちは「保険金を出せ」「宝石を返せ」と怒る。が部屋に戻ると皆で高笑いし、鞄から盗まれたはずの宝石を取り出す。夫人たちは謎の男――元泥棒で夫人の若いつばめと共謀し、怪盗ルパンに盗られたと見せかけて自分たちで宝石を隠した。そうして保険会社から大金をせしめることでまた新たな宝石を買おうと仕組んだのだ。
秘密を知ったシムラはその晩、宝石を盗もうとして夫人の部屋に忍び入るが、本物の賊と鉢合わせする。驚き気を失うシムラ。小森さんたちが事件に気づいて外に飛びだすと、ナイフを掴み呆然としているシムラを発見。傍らには若いつばめの死体があった。翌朝シムラは、ある人物が怪盗ルパンだと見当をつけて部屋に侵入。宝石と返り血の着いた衣服を見つける。そこへルパンが拳銃を持って現れる。なんとその正体はマツノ夫人の女中だった。彼女は若いつばめに素顔を見破られたため殺したと打ち明け、シムラを人質に取りホテルから車で逃走する。一方、高倉キャップと杉井君が絶好のタイミングで到着。小森さんたちと一緒にルパンを追う。車を捨てたルパンはサーカス仕込みの超人的な身軽さで追跡をかわそうとするが、キャップたちの奇策によりあえなく御用。騒ぎに乗じてシムラが宝石を奪い、湖に隠れるがすぐ捕まり万事解決。
東パト社本部。シムラは冬の湖に飛びこんだせいで熱を出し入院中。見舞いから帰った小森さんが煙草に火をつけようとするとライターがない。シムラにしてやられたと気づき悔しがるが、キャップたちは良いコンビだと笑うのだった……てな話。

・今回東パト社が扱うのは「欲の皮と見栄の皮がつっぱった」連中による強盗殺人と保険金詐欺。裕福なマダムたちが仕組んだ大胆だけどなんだかせこい茶番劇が結果的に殺人をも招くことに。この性根の腐った俗物どもに囲まれては、へまばかりやらかすコソ泥シムラがまだ可愛く見える。それと怪盗ルパンの正体には意表をつかれました。単なる化粧の濃いふてぶてしいおばさんかと思いきや、木に登ったりとんぼを切ったりと恐るべき身軽さ。確か江波杏子ゲストの天知版明智だったと思いますが、そこでも黒装束の賊が飛んだり跳ねたり大活躍していたことを思い出しました。
・貴重な準レギュラー「偽ガードマン」ことシムラに玉川良一。三原チーフ(清水将夫)よりも登場回数が多いのでは。何度か命を救ってくれた小森さんを「アニキ」などとあがめるわりに酒に睡眠薬を盛る、裏切って宝石を盗もうとする、ライターを盗むなど嫌がらせばかりしている。それでも小森さんはシムラが入院するとすぐ見舞いに行ったりと、口やかましい母親みたく何かと世話を焼くあたり、ガードマンと泥棒という敵対する立場を超えて友情を感じているようで。誠実一筋な自分にはない、情けないほどの不まじめさがお気に入りの理由でしょうか。社外にシムラのような相棒が居るのが小森さんだけというのも興味ぶかい。
・清水がまたも潜入捜査のついでに自慢の歌声を披露。顔が隠れるほど大きな麦藁帽子の、ひょろひょろ垂れ下がった縁が鰹節みたい。ちなみにホテルマンの役でわれらが篠田三郎が一瞬だけ出ています。一応科白はあるのだけど明らかに別人が声を吹き替えていて、演技に駄目出しされたのか役のわりに声が幼過ぎるからか知りませんが悲しい。