第170話「死神から逃げまくれ」

(脚本 山浦弘靖/監督 若林幹/出演 川辺久造 西沢利明 工藤堅太郎 沼田曜一)
舞台は阿蘇(とおなじみ白雲山荘)。主役は荒木。
今回の任務はテイニチ科学に勤める天才科学者・ムラヤマの護衛。「やりがいのある仕事だ」とはりきる荒木。が、案の定、熊本空港に着いたとたん二人の悪漢に銃で脅され、見渡すかぎり何もない草原へ拉致される。
悪漢の正体は、ライバル会社の産業スパイとやくざ。彼らはムラヤマから旅行の目的を訊きだすべく、ライフルを持った山男と手を組み、三人で荒木たちをいたぶる。火掻き棒で顔に火傷を負わそうとしたり、ライフルの標的にして遊んだり。
荒木は左足を撃たれるだけでなく、拳銃の硝煙で一時的に眼が見えなくなってしまう。ペン型催涙ガスを使って辛くも逃げだすが、今度はムラヤマのエゴに悩まされる。「めくらの君に案内できるのか」「私がボディガードを守らなきゃならないなんて!」などと好き勝手に悪態つき放題。おまけに荒木を蹴り倒し、自分を背負って歩くよう命じる。「お前のためにこんな目にあったんだ」「この頭からは何億ドルもの大金が生まれる、俺は世界に必要な存在なんだ、かつげるだけ有難く思え!」
一方、ホテルでは榊さんと杉井君が荒木たちの到着を待っていた。が、連絡が絶えたことを不安視し、杉井君がヘリで出動、捜索に向かう。が、案の定、やくざたちの画策によってあっさりとヘリを乗っ取られてしまう。
やくざはヘリで荒木たちの居所を突き止め、ライフルで狙撃。弾が空になり、ヘリの足で引っかけようとするが、地上すれすれを飛ぶうちに木に衝突、墜落死する。
なんとか一命をとりとめた荒木だったが、スパイに再び腕を撃たれ、苦しみ地に転がる。ムラヤマはスパイの尋問を受け、泣いて土下座する。何でも話すと誓い、自分の会社の内幕、宇宙開発に関する計画をべらべら喋る。助けてくれるならスパイの会社に自分が発明したロケットの固体燃料を渡すという。「会社を裏切る気か」荒木が問うと「そうだ、俺はお前みたいな忠実なイヌじゃない!」と怒鳴り返す。
荒木は不意をつき、スパイと山男を同士討ちさせる。それでも一息つく間もなく、今度はムラヤマがスパイの死体から銃を奪い、荒木に突きつける。荒木さえ殺せば、自分の醜態を見たものは居なくなる。卑屈なエゴイストとしての一面を知られず、天才科学者として堂々と生きられる――「撃てるものなら撃ってみろ」荒木が遂に激怒、ムラヤマを打ち倒して気絶させる。そのままネクタイで腕を縛り、ホテルへ向かおうとするが力尽きて寝転がる。ムラヤマは執念深く、荒木を蹴り殺そうとする。
そこへ榊さんと杉井君が現れ、ムラヤマに「殺人未遂の罪で連行する」と言い渡す。「俺が逮捕されたら企業が、いや日本、世界も大打撃を受ける」「雇い主を捕まえる気か!」と悪あがきをするムラヤマに、榊さんが断言する。「ガードマンは犯罪を犯す人間を許さん」
事件解決後。阿蘇白雲山荘。荒木は肩に背広をひっかけ、サングラスにくわえ煙草というやたら気障な格好で戸外に出る。
テイニチ科学からはクビの宣告。榊さんは「お前が蹴り殺されそうになるのを見て腹が立った」といいつつ、結果的には悪かったと反省すると、荒木は笑う。榊さんが自分の代わりにやりたいことをやってくれた、それですっきりした、と。眼は大丈夫かと訊かれて頷き、サングラスを外すと穏やかな笑顔で阿蘇を眺めるのだった……てな話。

沼田曜一も何気にガードマン常連悪役だったりします。映画『地獄』の粘着野郎、じゃなしに山村貞子の親父という方が解りやすいか。名前だけで禍々しさを発揮できる稀有な存在でした。
・荒木虐めの最たる回。悪党に痛めつけられるだけでなく、雇い主からも苛烈な口撃を受けるといのは珍しい趣向。荒木が手足を撃たれ、失明して苦しんでいるのも構わず、科学者が罵り続ける光景はなんとも凄惨でエロティック。最初この話を観たときは、テッキリ荒木は死んでしまうのだとばかり……この頃はほとんど出演せず、清水将夫演じる「三原チーフ」のように、いつ自然消滅してもおかしくない状況だったので……そんなもんだからラストの元気な姿は、素直に嬉しいと同時に威勢よ過ぎだろうと爆笑しました。
・悪あがきする川辺久造をぴしゃりと叱る、凛とした榊さんに惚れ直しました。会社の損になろうが正義を貫き部下を守る。元鬼警部ならではの威厳がある。そりゃ川辺久造でなくとも這ってでも逃げたくなります。神山繁氏、最近ファミ劇で放送された『特捜最前線』「前略、神代課長様・天使からの告発状!」の、娘思いが度を超した父親役も渋かった。笑顔がまぶしかった、って他意はなくて。