第347話「すごーい奥さんの飛行機爆破作戦」

(脚本 小山内美江子/監督 中西忠三/出演 悠木千帆 津川雅彦 平凡太郎 阿部寿美子 久富惟晴 江波多寛児)
 今回、東京パトロール社が警備するのは「オリエンタル石油」、石油コンビナートの工事現場。ここでは走るのも煙草を吸うのも駄目。わずかな衝撃で京浜工業地帯を巻きこむ、大惨事が起こる可能性があるため。その上空、妙なラジコン飛行機が飛んでいる。いまにも石油タンクに衝突しそうな勢いで弧を描きつつ。
 警備室。吉田さんと杉井君が勤務するなか、女が突如侵入。冴えない顔色、ほつれたひっつめ髪、買い物帰りのような普段着姿。一見して正気でないと判る。女の名は「ミズキユミコ」。黒いハンドバッグから拳銃を取り出し、吉田さんたちに突きつけ、夫を殺した清水を出せと叫ぶ。もう片方の手にはラジコンを握りしめ、あの飛行機にはダイナマイトが積んである、要求に従わなければ墜落させ、タンクを爆破・炎上させるという。
 吉田さんたちがなだめようとするのをユミコは無視。哄笑と激怒を繰り返し、荒木に「気違い」呼ばわりされても凄んで反論する。ガードマン全員を人質にし、清水を呼び寄せて殺害する。できなければ、飛行機を落とす。「石油タンクが燃える、次々燃え移る、たくさん人が死ぬよお
ガードマン不在では他の従業員が怪しむため、荒木は外に出るよう許されるが、ユミコに四台のモニターで監視される。荒木は交代にきた小森さんに事情を話し、飛行機の周波数を調べさせるが、別の電波で誘導させることはできない、電波が混線して直ちに墜落する、との応えに落胆する。
 警備室ではユミコがまた興奮し、喚きちらす。「ガードマンは番犬より最低だ、雇い主のために人殺しまでして!」ラジコンを奪おうとした吉田さんの肩を撃つ。床が鮮血で濡れる。出血多量で命が危ない。それでもユミコは救急車も呼ばせない。「貴様それでも人間か」荒木の苛立ちに対し、ユミコは突き返すように早口で応じる。「そうよ、夫を殺された、ひとりの人間よ!」
 一方、当の清水はユミコの夫ミズキを弔うべく、ふたりのアパートを訪れていた。近所の主婦の話では、ユミコは妊娠していたが、ミズキの死のショックゆえ流産したという。
 ミズキは三ヶ月前、保釈で刑務所を出たばかりのちんぴらだった。仲間と共謀して工場に侵入、従業員の給料を盗むが、清水の追及を逃れようとしてビルから転落。ユミコの懸命の看病もむなしく、一週間一度も意識を取り戻さずに死んだ。コンビナート上空を飛ぶ赤い模型飛行機は、ミズキが趣味でつくったものだった。
 高倉キャップは警備室が占拠されていると知り、入るなり自分が清水だと名乗る。が、キャップが撃たれることを怖れた荒木が割りこみ、折角の機転も無駄になる。それでも「ぼくはいいたい!」と熱く説教するが、やはり激したユミコには届かず。ユミコいわく、ここに来るまでに既に殺人を犯した、もうあとにはひけない――相手はソトムラ。現金強奪計画をたてた主犯。夫ミズキをそそのかし、ばれると見捨てて逃げた仇敵。ユミコは隠れ家を訪ね、家財を売った金で拳銃を買うとみせかけ、ソトムラを撃った。「ソトムラのやつ、自分も仇だってことを忘れて馬鹿みたい」ユミコが馬鹿笑いする。「これが主人に対する葬式だわ」。同時に嘆き悲しむ。ソトムラに使い捨てされて死んだ、ろくでなしの夫ミズキ。何度も真面目になると言いつつなれなかった、そんな男でも、あたしは見捨てられなかった――「あんたは勇気をもってミズキを捨てなかった、ミズキを愛した自分のためにこんな馬鹿なことをするんだ」キャップの説教もむなしく、ユミコは拳銃を構えたまま、清水を呼べと脅す。
 本部待機中の榊さんが異常に気づき、清水に連絡、清水はすぐ工事現場に向かう。行けば殺される、と引きとめようとする小森さん、杉井君を振りきり、警備室に飛びこむと自分は逃げも隠れもしない、と銃口の前に堂々と立つ。無関係な従業員まで巻きこむな、それに、自分が死ぬのはあんたの夫のためじゃない、あんな男のために誰が死ぬか! などと余計なことまで口走って煽るため、怒り頂点に達したユミコが狙いを定めたとき、小森さんたちが背後の窓を割る。驚いたユミコの隙を突き、キャップたちがラジコンを取りあげ、一応事件解決。ユミコは清水に近づき、涙ながらに頬を連打。駆けつけた榊さんから「ソトムラが一命をとりとめた」と聞くと、空けたように静まり、清水を睨みつつ唇を歪める。
 荒木たちは病院に連絡、飛行機をつかまえてようやく安堵する。清水はひとり岸辺にたたずんでいたが、キャップの呼びかけに力なく笑って応じ、皆とともに工場をあとにする……てな話。


・最終回直前に初脚本家きました、小山内美江子。いわずと知れた『3年B組金八先生』の脚本家。同時期に『キイハンター』なども手がけており、アクション物もお手のものなようで。今回はいつもより細部を詰め、同時に女の理詰めの情念、ようは常人の狂気を炸裂させた密室劇。拳銃の入手先、女とろくでなし夫の過去など、きちんと明かして筋を通す。このドラマでは一介の社長秘書が拳銃を持っている、しかも入手方法が判らんといった大胆な省略が度々あるため、今回の描写はある程度誠実にできていると思います。ひとりのガードマンに復讐するため石油タンク爆破、って計画自体、大胆に過ぎますが。
・それに一定のリアリティを付与する、悠木千帆の熱演も良い。第342話「教育ママの狂った大競争」に続く二度目のゲスト出演。躁鬱の振れが激しく、ぶっとい足で地団太踏み、凄むときの澱んだまなざしは緑魔子に匹敵する。どんなに詰られても反論し、唇結んで居直るふてぶてしさにしてやられます。また、ラストの清水に対する謎めいた表情。ここで女は本当に一線超えてしまったようで暗澹とします。
・なによりガードマンの団結力の強さを描いていて感心しました。清水を庇う荒木いわく「殺してやる、清水を殺したら、俺があんたを殺してやる!」。腐った婦女子も昏倒する殺し文句。燃える友情を前に、こんな発想してる自分も嫌ですが。全員に活躍の場があるのも(小森さんはどうだろう……)久しぶりな気がします。吉田さんが部下を叱る姿も。初期には自分は陸軍出身(訂正。第179話「殺し屋の来た島」によれば海軍でした)だとかいいつつ、自慢の土佐犬顔をいっそうしかめ、ミスした部下を怒鳴りつけておったものですが、そんな懐かしい強面がよみがえった感があります。
ところで。熱く説教するキャップに、大映ドラマの父親役の芽吹きを見ました。「落ち着くんだ、敏夫くん!」とか、真っ赤になって揺れて泡吹いてそうな。榊さんとのかけあいも年季が入っていて、てかる額を見あげながら喋るのはアドリブか演出か、判然とはしないけれど仲のよさをうかがわせて素敵でした。