第312話「女と男のズッコケ自動車レース」
(脚本 山浦弘靖/監督 土井茂/制作所 大映京都撮影所/出演 緑魔子 林隆三 藤村有弘 南利明 上野山功一 江波多寛児 石橋蓮司)
ロイヤルモータースのセールスマン・カゼタロウ(風太郎と書く。フータローとも呼ばれる)は典型的な「成績不良のズッコケ社員」。仕事中だというのにラジオの競馬実況に熱中し、「この一年間通して車三台しか売っとらんじゃないか」という社長の説教にもろくに耳を貸さない。挙句の果てには、へらへらした笑顔で「就職口なら幾らでもある、さっさとクビにしてみせろ」と居直る。いまは「人手不足の世の中」、そう易々と社員に逃げられては困る。小心者の社長はカゼに、客が注文した車を届ける仕事に就かせる。大金持ちの息子に化け、広島までオペルGTを運べと言うのだ。
キャスケットを被り派手なスーツに身を包んだカゼは意気揚々と車を走らせるが途中、高級ナイトクラブの踊り子を自称する(正体は場末の三流ストリッパー)西洋風の美女・キリコと出逢う。カゼは一目惚れし、同乗させて欲しいという頼みをほいほい快諾。彼女を尾行する、不審な二人の男の存在にも気づかずに。男たちは、キリコと一緒に静岡市内の宝石店を襲った強盗であり、彼女が恋人(ヒモでやくざ)と共謀して自分たちを裏切り、約二億円の宝石を持ち逃げしたため追いかけて来たのだ。
キリコはオペルに宝石を隠し、隙あらば逃げようとするが、二人組の邪魔もあってなかなか機会を掴めず、仕方なくやくざの指示通り「ホテル奥道後」へ赴く。一方「女と四国の温泉に行く」とカゼから報告を受けた社長は激怒。ボディガード兼見張り番として高倉キャップと小森さんを使いに出す。
かくしてホテル奥道後を舞台に宝石をめぐり、ズッコケ野郎、やくざとストリッパーのカップル、強盗、ガードマンたちの四つ巴の死闘(?)がはじまる……てな話。
※
・後半の粗筋書きは、しんどいので端折る。といっても話が気に入らないわけではない。山浦氏、ズッコケ野郎を主役に据えた喜劇を書かせると上手い。第205話「ズッコケ野郎は骨までしゃぶれ」も同様の趣向。だがそちらの主人公、平泉征は田畑を売って儲けた大金を周囲から狙われ、振り回されてばかりの田舎者。対してカゼタロウ(林隆三)は、気ままに動いて悪党どもを混乱させる、どこか間抜けてはいるが都会的で軽妙洒脱な青年である。後年の渋い演技しか知らないものにとって、林隆三のコミカルな演技は新鮮。陽気な饒舌にズッコケアクションの数々、井戸に落ちたり奇妙なクネクネダンスを披露したり、女湯を逃げ回るなど全てが面白おかしい。好きだ。
・就職口なら幾らでもある、筈なのに「人手不足」とはこれいかに。ロイヤルモータース自体、あんまし魅力ある会社ではないのかも知れない。
・魔子さんのストリップダンス。素敵。
・カゼがやくざの顔に生卵をぶつける場面があるが、これはやはり愛媛だから?
・ラスト、キャップとやくざが格闘する間にカゼがキリコに「宝石もって一緒に地球の果てまで逃げよう」と誘う。が、そんなこともあろうかと事前にキャップが車からキーを抜き取っていたため結局、愛の逃避行は果たせず。余計なことすんなよキャップ、と言いたいところだが一応、そこらへんの自覚はあるようで、小森さんいわく「われわれガードマンは四角張った生き方しか出来ない。彼の方が人間的かも知れませんね」。この科白、なんだかガードマンの生き方(というか在り方)が、もはや現在的でないしひとびとの心情に適さない、古びつつあるのだと告白しているようで物悲しい。